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2012/07/24

ちょいと湯西川ダムの試験放流へ行ってきた。その4。


この記事はその4です。まだの方はその1その2その3をご覧下さい。

  • 利根川水系/湯西川/栃木県
  • 形式:重力式コンクリートダム
  • 堤高:119m
  • 堤頂長:320m
  • ダム湖名:未定
  • 用途:洪水調節/河川維持・不特定用水/かんがい用水/上水道用水/工業用水
  • 着工1982年/竣工2010年予定?

さて、その3の記事までは直下の設備を見学させて貰ったので、今度は天端(ダムのてっぺん)へ移動します。

監査廊
監査廊

天端へ向かうために監査廊を歩いていると右側に階段が!!

僕「この階段の先には何があるんですか??」
管理支所長「利水放流バルブへ繋がる水圧鉄管がありますよ。」

と聞いただけのつもりが、管理支所長はさりげなく階段を下りていく。
見せて貰えるのか!?と思い付いて行く。
降りた先には小部屋があって、小部屋一杯に水圧鉄管が!!

残念ながら水圧鉄管の写真はありません。

水圧鉄管が大きすぎて鉄の壁しか写らないからです。

超音波流量計
水圧鉄管自体は直径2m。小部屋に対して水圧鉄管が大きすぎて手を伸ばさなくても触れる距離にあるんです。
そりゃ鉄の壁しか写りませんよ。

水圧鉄管には超音波流量計が付いていて、現在どのくらいの水が流れているか計測しています。

超音波で計測しているんですねぇ・・・。

知らなかった。




水圧鉄管を見せてもらい、今度こそ天端へ。





選択取水設備操作棟


天端に出るとすぐ近くには「選択取水設備操作棟」が。
シャッターが開いていて、中で現場の方が試験の一環なのか、操作盤を弄ってますよ

またしてもおもむろに管理支所長が選択取水設備操作棟へ。

ここも見せてもらえるのか!


選択取水設備



スペックの表示板を撮影してそそくさと中へ。

たくさんのダムを見てきましたが、選択取水設備操作棟は初めて入ります。

そりゃもうワクワクですよ。
パイプ
ずらずらと並ぶパイプ!
選択取水設備操作棟へ入ると目の前にずらずらと並んだパイプが!
こういうの大好き。

操作盤をいじっている作業員の方がこちらに気付き・・・

作業員「見られますか?」

僕(見たいです)
選択取水設備操作盤
選択取水設備操作盤
というわけで、操作盤を見せて頂きました。

湯西川ダムの選択取水設備は連続サイフォン式選択取水設備ですね。
こいつがゲートが無くても放流したり放流を止めたり出来ちゃう優れもの

仕組みとしては・・・身近なもので例えると「石油ポンプ(画像検索)」です。
石油ポンプでタンクからタンクへ給油する時に何回かポンプをシュコシュコ押すと、自然と空のタンクの方へ石油が流れていくのを見たことがありませんか?あれは「サイフォンの原理」というもので、圧力の関係で勝手に流れていくんですよ。

操作盤に表示されている状態は、ポンプをシュコシュコする前です。
ポンプをシュコシュコすると山のようになっている部分に水が充填されて、サイフォンの原理で右側へ水がどんどん流れていくわけです。

コンプレッサー
コンプレッサー
では、どのように「シュコシュコ」するのかというと・・・。

コイツです。コンプレッサーです。

このコンプレッサーで・・・





充填タンク

この充填タンクに圧縮空気を充填します。

この充填タンクから・・・






パイプ
パイプ

先ほどのパイプを通して、三角の山の部分へ空気を入れて空気を入れて放流を止めるわけです。

放流したい時は、パイプを通して空気を抜けば勝手に水が流れていきます。





この連続サイフォン式選択取水設備というのは、とても便利なものなんですよ。
金属のゲート等はありませんので、コストも安上がり。動作もシンプルでメンテナンスが簡単。

この辺でとある事に気付き始めますが、それはまた後ほど。

選択取水設備を出て、左岸の端へ移動。
左岸側 法面処理工
法面を見ると・・・あれ? ものすごく小さい(範囲が狭い)
僕が今まで見てきたダムの中でもトップクラスの小ささ。

僕「ここの法面は凄く小さく見えるのですが、ここの付近は岩盤とか地質とか良かったんですか?」
管理支所長「そうですね。最初はもっと大きくなる計画でしたが、実際にやってみると想定よりも状態が良かったので、予定より小さく出来ました。」

小さく出来たって事は、その分コストもかからずに済んだって事だよな・・・。


僕「そういえば、放流試験はどうなんでしょう?問題とかは??」
管理支所長「試験はとても順調です!このままいけば、何の問題も無く終了すると思いますよ!」
おぉ、今までで一番力強い返事かも知れない。頼もしい。

湯西川ダムのダム湖
湯西川ダムのダム湖
現地で見学の際には、気付かずに後ほど別のダムの職員さんに聞いた話なのだけれど・・・
湯西川ダムには係船設備(ダム湖へ船を下ろす施設)がありません
予算の関係で削られてしまったとか。

ダム湖を巡視・管理するために必要な施設が予算を削られてしまって作れないという。
ダムの正常な運用に支障は出ないのでしょうか・・・?気になります。

越流堤

選択取水設備操作棟の脇の通路にも入れてもらい、越流堤の裏側から。

おぉ、とても綺麗だ。









越流堤をアップで
越流堤をアップで

とても滑らかに水が流れている。

これは施工が良い証拠











イワツバメの巣
イワツバメの巣

選択取水設備の周りの足場には、大量のイワツバメの巣がありました。

水場には安定してエサがあるし、ダムではよく見かけます。

安定して水場ができる事によって、こうした静物が増える事はダムではよくあるんですよね。





水位はEL684mより30cm程高い。

越流堤の高さがEL684mなので、これより下がるとダムの上からの放流が終了します。

※ELとは標高の事。
天端から直下を望む
天端から直下を望む
堤高119mのダムから直下を望みます。うーん、高い。
凄い勢いで水が流れていく。それにしても・・・減勢池も小さいし、全体的にコンパクトにまとまっている印象を受ける。

湯西川ダム右岸より
湯西川ダム右岸より
僕「導流壁がものすごく低い気がするんですけど、あれで大丈夫なんですか?」
管理支所長「計画では上から1,800t/sまでの放流をする設計ですけど、模型実験でもちゃんと大丈夫でしたよ。」

導流壁というのは、放流している水が流れている部分の両端にある壁の事。
他のダムに比べてもものすごく低い。写真で見ると導流壁があるのかもよく見えないくらいに。

ここで、先ほどから気付いていた事を聞いてみる。

僕「なんだか、全体的にコストがかかっていませんよね。無駄なものが全然無いというか。他のダムと比べても、コストは安く出来上がってるように見えます。」
管理支所長「そうですね。仕分けで予算削られたりもしているので。ここのダムはね、広報費も削られてしまったので、資料館を作らないんですよ。」
僕「えっ?国交省のダムなのに資料館が無いんですか?そんな所あったかな・・・?そういえば、ダムカードは??」
管理支所長「ダムカードも広報費が無いので、今のところ作る予定はありません。」
僕「そうなんですか・・・」

というわけで、見学のレポートはこれでおしまい。
管理支所長には色々ワガママを聞いて頂き、大変お世話になりました。


係船設備とかダム管理に不可欠な施設も無いし広報出来るものも無い。
ダム自体も凄くシンプルで、あらゆるコストを抑えている印象が強い湯西川ダムでした。


最後に下流右岸側から見た放流の動画で今回の見学レポートを締めますよ!